vol.1 魚文化を伝える、魚問屋のコラムをはじめます

松本魚問屋 専務の松本幸一郎です。富山県氷見市で、創業100余年の魚問屋を営んでいます。

天然の生け簀といわれる富山湾。なかでも氷見漁港はナンバーワンの漁獲量を誇り、全国的に有名な「ひみ寒ぶり」をはじめ、四季を通して豊かな海の幸に恵まれています。

魚問屋の仕事

私たちの仕事は、漁港で鮮魚を競り落とし、豊洲市場をはじめとした全国各地の市場やスーパーに卸すこと。言葉にするととてもシンプルですが、全国各地のお客さんが求めている魚をヒアリングし、全国の漁港の水揚げ状況を把握しつつ、競り落とす魚の品質や価格を見極めています。

「いかにお客さんへ安く、いいものを届けるか」を常に考えながら、瞬時に判断する力が必要とされる仕事。さらに毎朝、どんな魚がどれだけ揚がるかも分かりません。そんな難しさから、私は自分のことを「フィッシュトレーダー」と名乗ることもあります。


「毎日おさかなひとくち」

近年、いわゆる「魚離れ」が叫ばれるようになりました。

確かに、魚は調理が面倒で時間がかかります。鮮魚店やスーパーも、新しいライフスタイルに合わせて、手軽に食べられる刺身や切り身に加工して売るようになりました。今では、魚の捌き方が分からない人も少なくないでしょう。

私たちは魚問屋として、「いかに魚文化を残していくか?」「もっと簡単に、気軽に魚を食べてもらうにはどうしたらいいか?」を考え、近年は加工業にも力を入れています。

専属シェフの山下が中心となって、「ぶりジャーキー」「ぶり唐揚げ」「ほたるいか沖漬け」など、さまざまな商品を開発しています。どれも『毎日おさかなひとくち』というコンセプトのもと、揚げるだけ、混ぜるだけ、解凍するだけ……と、簡単な調理法で食べられるものばかりを揃えています。


まだまだある魚文化

私たちの暮らしに根付いている魚文化は、食べることだけではありません。地域の風習や歴史とも深く関わっています。

たとえば、氷見を中心とした富山県西部では、「嫁ブリ」という風習があります。これは娘を嫁に出した家が、その年のお歳暮として、娘の嫁ぎ先へブリを丸ごと一本贈るというもの。成長とともに名前を変える“出世魚”のブリにあやかって、娘婿の出世を願う気持ちなどが込められています。

このように、私たちの暮らしにも深く根付いている魚文化。これらを知り、思いを巡らせることも、魚文化を残すことにつながるのではないかと考えました。

今回からはじまったこのコラムでは、毎月、魚にまつわる文化を中心にご紹介していきます。次回も楽しみにしていてください。